おぼろ月夜

2015年7月24日4:38 PM

moon 今回は一人暮らしのおばあちゃん。築45年城南区木造アパート建て替えのため対象者6家族の内の一人。

 怖い人も嫌だが、おばあちゃんも内心苦手というか、同情してしまう。ただ、私は相手によって態度とか作戦を変えるとか、妙な小細工はしない。いつもの通り正々堂々正面から正直に。

 初めての訪問、玄関先であいさつ、要件をいう。反応なし。世間話をして取り繕うとするが、“はい”でも“いや”でもない。最後に「しばらく時間を下さい」と言われる。こちらも「突然すみません、また後日に」と別れる。
 その後、連絡を取り「〇月〇日夜7時に来て欲しい」と言われる。当日、約束通り訪問すると玄関先に靴が5~6足。ただならぬ気配。「どうぞおあがり下さい」と言われ台所を過ぎ、居間には男の人が4人、女性が2人待っている。そのなかの一人が切り出した。「今日は〇〇さんから相談を受けて、ほっとけないと思い集まりました。私たちは、同じ宗教で一緒に活動している仲間です。一体〇〇さんをどうしようというのですか?」

 別の女性も「〇〇さんは何も悪い事をしていない」「そうだ、そうだ」の連呼。針のムシロ、魔女狩り裁判状態。私もしばらく黙って聞くが、このままでは私にも意地がある。一方的に悪者にされてはたまらない。聞くだけ聞いて・・。「最初から改めて説明させて頂きます」まずここに来た理由。家主さんもそれなりの事は考えているしタダで立退きとかは、考えていないということ。次第に「どこに行けばいいのですか?引っ越し代もかかるし、色々・・」と色々質問が。それにひとつひとつ丁寧に答えていく。
 1時間もそういう問題があった後、そのおばあちゃんがぽつりと切り出した。「この年になって住んでいる所を追い出されるなんて、こんなみじめなことは無い。自分の日々の行いが悪いせいでこんな仕打ちを受けるのでしょうね」と泣きながらトツトツと話される。私も声を震わせ「そんなことはない。おばあちゃんはひとつも悪くない。絶対悪くない!私が責任を持っておばあちゃんの気持ちがすむように最後まで面倒みます。すみません、すみません、こんな話を持ってきて」。・・・沈黙。

 一人の男性が「自分たちも引っ越し先を探してみるが、あなたも探してほしい。今後の事は1対1で話し合わず、この中の誰かを必ず同席させることを要求され私も承諾。その後話し合いを重ね、具体的に前向きな話になり2カ月後無事引っ越し完了。引っ越し業者の手配までやり遂げた。

 帰り道 おぼろ月夜。「まずいとわかっているが飲まずに寝れんやろ」とポツリ。


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